「長谷部ってさあ、ぜんぜんわがまま言わないよね」
わたしがそう言うと、書棚の整理をしていたへし切り長谷部は驚いた顔をしている。
せかせかと動いていた長谷部はこちらに向き直り、はあ、とため息をつく。
「……ほかの者はそんなに主にわがままを言うのですか」
「いや、わがままっていうかあれがほしいとか、なにをしてほしいとかね」
ほかの刀剣たちはわりと思ったことを口にする。
だからすごくわかりやすいし、嬉しいことも不満もぜんぶこちらに伝わってくる。
けれども長谷部にはそれがない。なにがほしいとかあれをしてほしいとか長谷部の口からは一切聞いたことがなかった。
「ほかの子は思ったこと口にするけどさ、長谷部ってもしかしてなんか溜め込んでるのかなーって思って」
「いえ……そんなことは……」
わたしが顔を覗きこむと、長谷部は顔をそらす。
その表情はなんだか思うところがあるように見える。主命第一の生真面目な長谷部もやっぱり多少の欲求はあるだろう。
あまり刀剣たちの間に不満は募らせたくないというのがわたしの方針だ。
ほかにも自分の欲求をわたしに言わない刀剣は多くいるが、わたしが尋ねると実は、と始まることが多かった。
頑なな性格の長谷部にこの作戦が効くかどうかはわからないが。
「言いたいことがあったら言っていいし、してほしいことがあったら遠慮せず言っていいんだよ?」
「してほしいこと……ですか……」
長谷部は悩ましげな顔をして黙ってしまう。
これは絶対なんかあるにちがいない。あともうひと押しだ。
「じゃあ、主命だよ、主命! わがままをひとつ言うこと。わたしはそのわがままに付き合うから」
「はあ……」
長谷部は知っての通り、主命にとても弱い。
普段はあまり命令なんてしないが、ここぞとばかりに使わせてもらうことにした。
本当は命令で言わせたくもないのだが、長谷部の場合は仕方がない。
こうでもしないときっと長谷部のことだから遠慮するにちがいない。
手を頬に当て、眉間にしわをよせて考える長谷部はちらちらとわたしのほうを見る。
「なんでも、よろしいのですか」
「うん」
「本当ですね?」
「しつこいなあ。ほら、早く言いなよ」
再確認してくることがなんとも長谷部らしい。
わたしがはやく、はやく、と促すと、長谷部はきりっと顔をあげ、わたしのほうをまっすぐ見つめるが、すぐに顔を俯かせる。
顔はうっすら紅潮しているようにもみえる。たかがわがままを言うだけでおおげさだなと思うが、長谷部にとっては一大事なのかもしれない。
急かしたものの、気長に長谷部の返答を待っていると、長谷部は俯いたまま、ぽつりと呟く。
「……踏んで、頂きたいのです」
「は?」
わたしは聞き間違えたのだろうか。
疑いたくなる言葉に、反射的に聞き返すと、長谷部は羞恥を捨てたのか、真顔になってわたしにわがままを言い放つ。
「踏んで頂きたいと言ったのです。主の、その足に」
「踏んでほしいってなに、背中とか? ばきばきすると気持ちいいよね」
「いえ、そうではなくて……」
もうそれ以上のことは言わないでくれと願望を混じえた返しをするが、長谷部に軽く否定されてしまう。
なんだか嫌なことしか思い浮かばないし、それが思い浮かんでいる自分がもう嫌だ。
長谷部は自分の下腹部に手を当てると、物欲しそうな顔でわたしのほうを見てくる。
「こちらを、主の足で踏んで頂きたいのです」
「い、いや……ちょっと、待って長谷部、落ち着こう。疲れてる? 疲労が限界まできてる?」
「いいえ、至って健康です」
健全な状態でひねり出されたわがままがそれか。
長谷部はその場に座ると、いやらしくゆっくりと足を開いて、さあ踏んでくださいと言わんばかりにわたしのことを見つめてくる。
わたしが言うわがままはそういうことじゃない。
もっと健全なことを期待していたのだが、まさか長谷部がこういう切り返しをされるとは思わなかった。
わたしのなかの長谷部と実際いまここにいる長谷部のギャップがありすぎて、わたしの理解が追いつかない。
「いや待って……長谷部、だめだよそれは、だめすぎる」
「俺は主命に従ったまでです。それに主はおっしゃいました。わがままに付き合ってくださると……」
「うっ……」
揚げ足を取られた気持ちだ。
長谷部はじっとわたしを見つめてくる。それに堪えきれずわたしは目をそらす。
しかし、わがままに付き合うと言ったのは紛れもない事実だ。
長谷部の望むことはわたしの足があればいいこと。無理難題を言っているわけではない。精神的には難題だが。
服の上からだろうし、わたしも足袋をはいている。なにも怖いことはない。
ゆっくりと自分に大丈夫だと思い込ませ、深い深呼吸をして、わたしは立ち上がる。もう覚悟は決めた。
「……わかった、やる」
決意を口に出すと、長谷部の顔が明るくなる。
そんな顔、いままで見たことがない。もっとほかのところでその笑顔を見たかった。
「では、お願いします」
「…………加減がわからないから、痛かったらごめんね」
袴の裾を手で引っ張り、そろっと足をあげて、長谷部の股間にゆっくりと足をおろす。
軽く触れただけで、もう長谷部のそのものが膨らんでいるのがわかる。
なるべく目に入れたくないので、目をつむり、感触だけを頼りに足をくっつけたり離したりを繰り返す。
「もっと、強く踏んでください……主……」
余裕そうな声で長谷部はそう求める。
ほんとうなら踏み潰して逃げたいぐらいだが、そんなことをするわけにもいかないので、大人しく長谷部の指示に従う。
ほんのすこしだけ、足に力を入れる。
服の下で固く張れている竿の先端を足でつつくと、長谷部のからだがびくりと動く。
「あっ、痛かった……?」
「いいえ……すごくもどかしいです……」
すりすりと服越しに陰茎をさすると、びくんと震えるような反応が足に伝わってくる。
はたしてこれは気持ちいいのだろうか。
長谷部も声はおろか、息すら漏らさないので、いささか不安になってきた。
薄目を開けると、長谷部は服の中に手を突っ込み、自分のものを擦っているように見えた。
足だけではあまり気持ちよくなれないのだろうか。
なにせわたしはこんなことをやったことがない。どうすれば気持ちがいいのか、痛くないのか、よくわからない。
だとしたら本人に教えを請うしかない。
「ねえ、長谷部……どこを踏んだらいいのかわたしわからないよ……」
「それでは……こちらを」
足を長谷部にひっぱられると、先端より下がって根本のほうに誘導される。
さするように上下に足を動かし、時折ぎゅっ、と強く踏み抜く。
「あっ……あるじっ、お上手です……んっ、はあ……」
「これ本当に気持ちいの……?」
「ええっ、あっ、やぁっ……主の足はっ、んんっ……気持ちいいですっ……」
なんだかこちらが言わせているみたいだ。
長谷部はいつもわたしに話しかけるような柔らかい声で嬌声をあげる。
耳にじんわりとその声が残り、こちらまでどきどきとさせられる。
その声が聞きたいがために、わたしは足でひたすらに長谷部のものをぐにぐにと踏みつける。
そうする度に長谷部はよがり声をあげて、わたしにもっと、と求めてくる。
足で踏んでほしいだなんてとんだ変態だと思ったが、わたしもあまり人のことは言えなさそうだ。
踏まれて恍惚の表情を浮かべている長谷部をみて、いじらしいと思ってしまった。
大の男が身悶える姿をかわいらしいと思うなんて、いよいよわたしの頭もどうかしているのかもしれない。
長谷部の陰茎はもう服の上からでも形がくっきりと見える。
「苦しそう、これ」
「ああっ、主、おやめくださいっ……!」
張り詰めた苦しさから解放してあげようと、わたしはしゃがみ、一気にズボンのボタンを開ける。長谷部の制止の声などお構いなしだ。
下着を避けると、わたしの足の下でくすぶっていた長谷部の陰茎がいきり立つ。
がちがちに固くなって、だらだらと汁をたらしているそれを見て、わたしの思考は一瞬停止した。
調子に乗って脱がしてしまったが、これを足袋越しに愛撫するのかと思うと、恥ずかしさで直視できない。
わたしが再び立ち上がると、脱がすのを制止したとは思えないぐらい長谷部の顔は期待に満ちていた。
この男、完全に楽しんでいる。
わたしはなにも言わずに、おそるおそる、竿の下にある生身の玉に足をのばす。
当然なのだが先ほどよりも感触が直に伝わってくるし、体温も感じる。
優しく踏むと、長谷部の顔が快楽にゆがんでいる。
「ああっ、主……主が、俺のっ、はあ……っ」
主、主、とわたしのことを長谷部は情けない声で呼ぶ。
それがなんだかやっぱりかわいらしくて、長谷部のものからは目をそむけつつ、ぐにぐにと踏んだり離したりを繰り返す。
しばらく足先で玉を弄んでいると、先端から溢れてくる粘着性のある液体が竿に滴ってきて、わたしの足袋を汚した。
足の裏が濡れてなんだか気持ち悪いので、片方の足袋を脱ぎすてる。
足袋を投げ捨てて素足になった途端、長谷部が嬉しそうな顔をする。やはり素足のほうが嬉しいのだろうか。
立ったまま相手をしているのもなんだか疲れてきてしまって、わたしは長谷部と向き合うようにその場に座る。
足で竿を倒すように踏みつけ、そのまま上下に擦ると、長谷部はわたしの顔を見ながらよがり声をあげる。
布一枚はさんでいた時よりもさらに生々しい感触が足から全身に伝わる。
親指と人差し指の間に長谷部の陰茎をはさむようにして擦ってやると、長谷部はびくびくとからだを揺らして、体勢を崩してしまう。
さっきまでは上半身をちゃんと起こしていたのに、いまはもう腕でからだをなんとか支えているような状態で、こちらからは顔しか見えない。
「あっ、主っ、あるじっ……! やっ、はぁ……ああっ……」
「長谷部にこんな悪趣味があったなんてね」
できれば主命第一の、生真面目な性格という印象だけでいてほしかった。
こんなことになってしまっては、もう長谷部のイメージは変態のただ一択しかない。
「長谷部……これ以上、どうされたいの?」
「主っ、あるじの足でどうかっ、どうか射精させてくださっ、……ああっ、はあっ……!」
ちょっといじわるなことを言ったわたしに対して、長谷部は許しを請うてくる。
それがまたかわいくて、はやく出すとろこが見たくて、わたしは力強く踏んだり、優しく擦ったりして射精をうながす。
「いいよ、長谷部。いっぱい出してっ……」
「あるじっ、俺はっ、あっ、ああっ……!」
やがてびくびく、とからだが痙攣を起こしたかと思えば、あっ、という長谷部の小さな喘ぎ声と共に精子が溢れだした。
だらだらと先端から情けなく精子をこぼしている長谷部は、果てて力が抜けたのか、その場に倒れこむ。呼吸が少し荒くなっていて、覗きこむと顔が赤い。
足に付着した長谷部の精子をちり紙で拭き取り、寝転んでいる長谷部の頭をよしよしと撫でる。
まるで放心しているようなぼうっとした表情の長谷部は珍しい。普段からはとても想像できない顔だ。
「長谷部、大丈夫?」
「ええ……とても気持ちよかったです」
感想は聞いていないのだが、長谷部が嬉しそうなのでまあよしとしよう。
頭を撫でていると、すりすりと寄ってきてかわいらしい。いつもこうやって甘えてきたらいいのに。
そんなことを考えていると、手を掴まれ、指の先端に口づけをされる。
「次は……こちらでもお願い致します」
「……えっ?」
勝手に次の約束を取り付けられて、思わず驚いてしまう。
長谷部は、驚いたわたしの顔をみて見たことないぐらいの笑顔を見せると、勝手に小指まで絡められて、約束をさせられる。
思わず唖然としてしまうが、まあ、いいかと思ってしまう自分もいるわけで、勿体ぶりながらその約束を受け入れるのだった。
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