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 残る暑さと書いて残暑。その通り、盛夏が過ぎても暑いのはまだまだ変わりなかった。
 刀剣たちが内番に精を出しているなか、わたしはというと机仕事の合間、こっそりと冷凍庫を物色していた。
 もうすぐ秋になるというのにまだまだ太陽は本気を出してくるものだから、熱を冷ますものはないかと保冷剤を探しに来たのだ。
 しかしあったはずの保冷剤はなくなっている。
 この間、刀剣たちにあまりにも暑くて眠れない日に保冷剤を当てるといいなんて教えたから味をしめて持って行ってしまったのだろう。
 わりとあったはずの保冷剤はすっからかんで、冷凍庫にあるのはお徳用のソフトクリームだけ。
「……しかたない、ソフトクリームでも食べよう」
 どうにかして暑さを誤魔化したい。食で気を紛らわせるのもまあいいことだろう。
 いま、台所には歌仙兼定も燭台切光忠もいない。あのふたりは台所に置いてあるものに関しては特に厳しい。
 こっそりソフトクリームなんて食べようものなら「大の大人がみっともない」と呆れられた後、ねちねちと小言を言われるだろう。
 わたしだってたまには甘いものを食べたい。だれもいない居間のソファに深く腰掛けてソフトクリームの封を開ける。
 開封すると冷気が漂ってきて、口に入れるとひんやりと咥内から身体中を冷やしてくれる。濃厚なミルクの味わいはなんだか久しぶりだ。
「あー……美味しい」
「やれやれ……今日は暑いね……と、主。なにをしているのかな?」
 後ろから聞こえた声に背筋まで思わず冷え込む。
 恐る恐る振り向くと、こんな暑い日なのに長袖のジャージにチャックを首元まであげている、冷ややかな眼差しのにっかり青江がいた。
 青江はわたしのことを上から下までじとりと蛇のような目で眺めると、わたしが手に持っているソフトクリームに注目する。
 こっそりひとりでソフトクリームを食べているのがバレてしまった。しかも、よりによって多弁な青江に。
「あっ、いや、えっとこれは、ちがうくて! あっ、食べる? 青江も食べる?」
「そんなに慌てなくても告げ口なんてしないよ」
 わたしの考えていたことはあっさりと青江に見ぬかれていたようだ。ひとりで焦っていたのがとても恥ずかしい。
 青江はどうやら内番の合間に水を飲みにきたらしく、蛇口をきゅっと捻ってコップに水を注ぐ。
 ほかの面々はどうしているのかと聞くと「まだ頑張ってるんじゃないかな」とのん気な回答。わたしよりも雷を落とされそうな奴が身近にいた。
 青江もわたしの隣に腰掛けると、水を飲みながら何も言わずにこちらを凝視してくる。正しく言えばソフトクリームを。
「……なに見てるの」
「それって美味しいのかな、って思ってね」
「あれ、食べたことなかった?」
 わたしの問いに、青江は素直に頷く。
 よくよく考えたら青江は甘いものを食べるイメージなんてないし、そもそも食に感心があるのかすらあやしい。
 それなのにソフトクリームに興味を持っているのは意外だ。
「すこし食べる?」
「……いいのかい?」
 青江は嬉しそうに目を細めると、わたしが手に持っているソフトクリームにかじりつく。
 髪の毛が口元にかからないように耳にかける仕草と伏目がちな目元がなんだか女性的だ。
 食べたことがないくせにきれいに食べる青江がなんだか小憎たらしい。
「すぐ口の中でとけるんだねえ」
「味は? おいしい?」
「うーん、そうだねえ……あ、主、手にこぼれているよ」
「げっ!」
 指摘された通り、コーンの先の部分からソフトクリームが液体になってわたしの手にぽたぽたとこぼれている。
 青江が食べている様子を見ていたせいで、こぼれていたことにまったく気がつかなかった。
 テーブルの上においてあるティッシュを手を伸ばすと、その手をぐいっと青江にひっぱられる。
 どうしてだとかなぜと指摘する間もなく、ソフトクリームがこぼれた手の甲から指先まで、青江の赤い舌がゆっくりと這う。
 その感触にぞわりと鳥肌が立って、それからからだの暑さが戻ってくる。
「うえっ、えっ、あおえっ、ちょっと……」
 一滴も残さずわたしの手にこぼれたソフトクリームを舐めとった青江は顔をあげると、何事もなかったようにほほ笑む。
「甘くておいしかったよ。ごちそうさま」
 コップに入っていた水を飲み干して、青江はソファから立ち上がる。
 さあまた内番だ、なんて流暢なことを言って立ち去ろうとする。
 わたしはというと驚きのあまり声が喉につっかえてでてこない。
「あっ、あおえ!」
「ん、なんだい?」
「はっ……はやく内番もどりなさい……」
「わかってるよ。まったく……また手にまめができてしまいそうだよ」
 言わなければいけないことがまったく言葉にならない。
 結局関係のないことを言って青江を追い出し、深いため息をつく。わたしだけ顔を赤くしてなんだかばかみたいだ。
 ひとりになって落ち着きを取り戻していると、また忘れていたソフトクリームが手の甲に落ちてしまう。
 手の甲に唇を重ねると、甘いソフトクリームの味とは別の味がする気がして、顔が暑くなる。
 もう夏も終わりがけだというのに、わたしの中ではまた盛夏がぶり返してきてしまった。


「溶けたら舐めて、舐めたら溶けた」
(8/27 お題@さにわんらい様)

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