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 玄関の戸が開けられる音がして、部隊が帰陣した声が聞こえる。
 その声に反応して、審神者はいつも刀剣たちを玄関まで出迎えに行く。
 刀剣たちの声音はいつも通り元気がある。ということは深手を負った刀剣はいないということだろう。
 元気な声にほっとした審神者は安心しきった表情で部隊を迎えた、が、刀剣たちの姿を見て、審神者は目を丸くする。
「お疲れさま……って、ちょっと、大丈夫?!」
 部隊の六振り中、四振りがめずらしく負傷していた。
 審神者は刀剣たちをみて血相を変えて駆けよる。
「ちょ、ちょっと……どうしたの!」
「いやー、最後でやっちまった!」
「ああもう、心臓が止まるかと思った……! 怪我してる子は手入れ部屋に……」
 部隊長を任せていた獅子王は根っから明るい性格なので、多少の怪我ではへこたれずけらけらと審神者に笑いながら報告する。
 そんな獅子王の笑顔を見ても審神者は気が気じゃない。怪我は滅多にしない面子だったので、完全に油断していたのだ。
 負傷してる刀剣たちを手入れ部屋に行くよう指示する中、すっ、となにも言わずに審神者の横を通り過ぎていく刀剣がいた。
 審神者はそれを見逃さず、勝手にどこかへ行こうとする刀剣の手首を掴んで引き止める。
「ちょっと、どこ行くの。手入れ部屋に……」
「僕はあとでいい」
 ぶっきらぼうで冷たい、いらだちを含んだ声に審神者は顔をあげる。
 審神者の指示に従わずどこかに行こうとした刀剣は燭台切光忠だった。
 いつもの優しい顔つきはどこへやら、眉間にしわがよって、目をぎらぎらとさせて下唇を噛む姿は、まったくもって彼らしくなかった。
 審神者が掴んだ手は振りほどかれ、光忠は審神者に目も合わせずに、さっさと廊下を歩いてどこかへ行ってしまう。
「あー、燭台切な。いま相当機嫌わるいぞ」
「うん……わかってる」
 滅多なことで怒らない光忠の機嫌が悪い理由は、すぐにわかった。
 ふだんの燭台切光忠は、比較的利口な性格である。
 人数の多い本丸での衣食住すべてに気を使い、明るくおおらかで、審神者もよく頼りにしている。
 しかし帰ってきた光忠は、いつも念入りに整えている髪型も服装も乱れていて、あちらこちらに怪我をしている。
 光忠は出かける時も帰ってきた時も挨拶はしっかりかかさないきっちりとした性格である。
 だが、いつもは聞こえてくるはずの光忠の声が今日は聞こえなかったと審神者は思い出す。
「まったくもう……」
 けれども、怪我を負っている刀剣をほうっておくわけにはいかない。
 審神者は手入れ道具を持って光忠のあとを追いかける。おそらく自室に戻ったにちがいない。
 光忠の部屋の前にたどり着き、障子に耳をそっとあてると、大きなため息が聞こえてきた。
 そんないつもと違う光忠にすこし緊張しながらも、審神者はそろっと部屋に入り、光忠の正面に座る。
 うつむき気味の光忠の顔を覗きこむと、やはりいらだった様子で口をひらく。
「……ひとりにしておいてくれないか」
「そういうわけにはいかないの。いいから大人しく手入れされなさい」
 しかしここで大人しく引き下がる審神者ではない。
 ふだん怒らない気性のひとが怒った顔をしているとやけに怖いが、怪我をほったらかしておくわけにはいかないのだ。
 審神者はなるべく光忠の顔をみないようにしながら、手入れを始める。
 光忠の言い分なんぞ聞く気のない審神者に、光忠はすこし眉間のしわをゆるませて、また、ため息。
「はあ……君に格好わるいところは見せたくないんだけど……」
 光忠はなにごとに関してもやけに格好を気にする。
 日常生活でもそうなのだが、戦に関してはやはり本業だけあってもっとも格好よさに固執する。
 審神者からすると、格好わるかろうが破壊されず無事に帰ってくるだけで満足なのだが、光忠はどうもそうではないらしい。
 いつもは大人っぽく他の刀剣たちの面倒をみているのに、こういう格好よさにこだわるところだけはやけに子どもくさい。
 光忠はしかめっ面のまま黙って手入れを受け入れるが、審神者の顔を見ようともしない。
「光忠さんってそういう格好つけたがりなところ、子どもっぽいよね」
「……悪かったね、子どもっぽくて」
 ぽろっと、審神者が思ったままのことを口にすると、光忠は面白くなさそうにすねた口調で答える。
 こういうところが、まさに子どもっぽい。だれの前でもこんな姿は晒さないのに、審神者の前ではいじけたりすねたりするのだ。
 それがすこしかわいいと思えてしまって、審神者の顔はすこしほころんでしまう。
「悪くないよ。いつも格好つけて大人ぶらなくてもいいんだから。たまには光忠の格好悪いところ見せてよ」
 わしゃわしゃと髪の毛をかき乱すように頭をなでると、光忠のすねた顔はすこしゆるんで、いつものようなほほ笑みをみせる。
 それから審神者の腰を抱き寄せて、胸に顔をうずめて困ったようなため息をつく。
「君はほんとうにずるいよ」

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刀さに版深夜の審神者60分一本勝負 様  @saniwan60
燭台切光忠 お題「サイン」「大人のふりも一苦労」
2015.06.12

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