「どうしてこんなことになるまで無茶したのよ」
「なにをしようが僕の勝手です」
怪我を負っているくせにすました表情、つんとした声音でそっぽを向いたのは宗三左文字だ。
宗三の手入れをしている審神者は、かわいげのない反応に顔がゆがむ。
審神者は日頃から刀剣たちには無理をせずだれかひとりでも怪我をしたらすぐに帰ってこいと言い聞かせていた。
もちろん、いくら言っても怪我を負ったまま戦場を突っ切る刀剣は少なからず存在する。いつも同じような面子である。
自分勝手に怪我をして帰ってきた刀剣たちには、お灸をすえて反省させていたのだが、思わぬ刀剣の負傷に審神者はまず最初に首を傾げた。
「宗三は無理をする性格じゃないでしょ」
宗三左文字はなんだかんだ審神者に文句をいいつつもつねに利口であった。
無茶をせず粛々と戦をこなす。これまでだって怪我をして肩を借りながら帰ってきたことなど一度たりともなかった。
切創や青く腫れた痣を癒やしながら、審神者はため息をつく。
だれであろうとも、負傷した刀剣を見るのは心が痛い。
「僕の性格が貴方にわかるんですか?」
「もう、またそうやってへりくつばっかり……」
宗三は審神者の問いかけにまともに答えたためしがない。
ふざけているわけでも茶化しているわけでもないのだが、かわすことが上手いといえばいいのか、とにかく審神者とまともに会話をしようとはしなかった。
審神者は怪我をしてまで戦をし続けた理由を知りたいだけなのだが、言いたくないのか、言う価値もないと判断されたのかいっこうに話してくれない。
傷口を守るための包帯をきつく腕に巻きつけていく。審神者のいらだちが包帯を巻く力へとむかう。
「本当に、無理しちゃだめだよ」
「おや、僕に説教ですか」
「いつもわたしにぐちぐち言うんだから、たまには言わせてよ」
いくら審神者が宗三をいたわっても、当の本人は伏せた目でしげしげといやそうに審神者を見つめるだけ。
「検非違使に出くわしたら、無理して戦わなくていいって言ってるでしょ」
検非違使は通常現れる歴史修正主義者よりも凶悪なほどの強さである。
個々によって練度のばらつきがはげしい宗三が在籍する部隊は、いつも検非違使と遭遇した際は勝ちを狙わず引けと審神者も命じている。
それは刀剣たちを守るために言いつけた、審神者の考えであった。
検非違使の討伐は他の部隊に任せればいいというのも審神者の思考で、宗三はその言葉を聞いて顔を曇らせる。
「僕は貴方の……」
なにか言いかけて、宗三は口を袖で隠し、なにかを考えているのか眉にしわを寄せて、押し黙ってしまう。
中途半端な宗三の言葉に、審神者はしかめっ面をしながら、青痣になっている部分へと薬を塗布していく。
「なによ」
「……貴方のそういうところがきらいなんですよ」
「はいはい。わたしも宗三さんのはっきり思ったこと言ってくれないところがきらいですー」
きらいだと言われて拗ねた審神者はふん、と鼻をならして薬を塗った部分に包帯を巻いていく。
なんとか取り繕えたと、宗三は口元を隠したまま一息つく。
審神者は以前から、検非違使が所持していると言われている刀剣を手に入れたいと漏らしていた。
その刀剣を手に入れれば審神者もいくらか喜んでくれるのだろうか、がらにもなく宗三は、検非違使と対峙した時にそう思ったのだ。
人間にために一生懸命に戦をしようなど、自分らしくないと宗三は思ったのだが、からだが先に動いたのだから仕方がない。
結果、勝利は掴んだものの自分のからだをないがしろにして、手入れをされながら説教を食らっているというわけだ。
しかも望んでいた刀剣は手に入らず、ただの怪我損というわけだ。
あまりにも格好がつかないため、宗三は本当のことは言えずためらって嘘をついた。
宗三なりに、審神者のことは大切に思っていた。
審神者は過干渉でもなく非干渉でもなく、ほどよい距離感を保ちつつ自分に対しても包み隠さず素の態度で接してくれる。
宗三にとってそういう人物は貴重であり、ありがたくもあった。
「ほら、こっちも脱いで」
右半身の治療が終わって、左側の着物がつよい力で引っ張られて脱がされる。
反対側とは異なるからだの一部に、審神者はあ、と声を漏らして黙りこんでしまう。
左胸に印された魔王の所有物であった証に、審神者の目が向いていることに、宗三もすぐに気がついた。
いままで大それた負傷もしたことがなかったため、宗三の左胸にある刻印を、審神者は見たことがなかったのだ。
「……ごめん」
「なにを謝ることがあるんですか」
「んー……なんかそれが、いやだなって思ったの」
審神者は宗三から目を逸らして、自分の思ったことをはっきりと宗三に伝える。
その面持ちはいつもと異なって暗く、神妙だ。
審神者の言うそれとは、宗三の左胸に刻まれた印のことである。
ごめん、とふたたび審神者は謝って、左肩の治療を始める。
なにを謝ることがあるのかと宗三は、審神者の言葉の意味がわからなかった。
逃れたくても逃れられないこの紋に、いままで宗三自身もさんざん苦しめられたというのに。
望まれて刻まれたわけではないその刻印に、謝罪する価値などないと宗三は思った。
「では貴方が、別の印をつけますか?」
半分は冗談、半分は本気でそう問いかけた。
その問いかけに審神者ははっと顔をあげて、それから悲しそうな顔をして、宗三の頬をつねる。
「わたしはそんなばかなことしない。宗三を縛り付ける真似はしない」
「…………冗談ですよ」
めずらしく怒鳴られて、宗三は思わず驚いて目を見開いた。すぐに言い返すことはできなかった。
審神者は頬から指を離すと、巻いていた途中の包帯を乱雑に巻き終え、宗三の着物を着せ直す。
そして怒った様子で顔を強ばらせながら、人差し指を顔の前に突きつける。
「手入れ終わり! あほなこと言ってないでさっさと寝なさい!」
どたどたと足音けたたましく、審神者は部屋を出て行ってしまう。
五割方本気の冗談にあそこまで審神者が起こると思っていなかった宗三は、言われたとおり布団に横になる。
彼女の怒った顔を思い出し、ふしぎと口が歪む。自分のために怒りをむき出しにしてくれる審神者の存在が、宗三にとっては唯一であった。
審神者に刻まれる刻印ならば、むかしのことなど忘れてしまえそうだとさえも思った。
半分の冗談が、すこし本気に傾いて、宗三は自分もどうかしていると思いながら眠りに落ちるのであった。
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刀さに版深夜の審神者60分一本勝負 様 @saniwan60
宗三左文字 お題「それならいっそ焼き付けて」
2015.07.01
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