「あんたってわたしのことをよく見ているよね」
そんなことを言ったわたしを見て今までにないぐらい目を見開いている刀剣の顔が面白くてぜひ記録に残しておきたいぐらいだった。
驚いた顔は一瞬でしかめられ、目を細めて彼はわたしを睨みつける。そんなことしたってもう怖くもなんともないというのに。
最初こそちくちくと針で同じところを何度も刺すような悪口ともとれる嫌味やえたひにんを見るような目つきに苛立ちを覚えたが今ではまったくそんなこともなくなってしまった。
これはおそらくわたしの中の彼の存在が大きく変わったからだろう。わたしが彼を理解したからだろう、と思いたい。
きれいな桃色の着物で口元を隠した彼は眉間にしわを刻んだまま、その言葉遣いはよくありませんと話題を逸らす。
彼に伝えた通り彼はわたしのことをよく見てくれている。ほかのだれよりも今までであっただれよりも。
その分、と言っていいのかわからないが彼はたいそうわたしに厳しくあたった。
ふだんの立ちふるまい、礼節や所作にいちいち口を出してくる彼のことをわたしは何度も疎ましいと思った。
ほかにも口煩い刀剣はいるがここまでわたしの細かな短所を虱潰しにしてくるのは彼ぐらいだ。それぐらいわたしは彼に見られていた。
わたしは本当に嫌われているのだと思った。嫌いな人間の嫌なところはよく目につくと言う。
しかし彼が苦言を呈する部分は決して粗探しなどではなかった。本人のわたしすら気づいていない悪癖が多く、矯正していくうちになるほどと気付かされることも多かった。
なぜそんなところにばかり彼は気づくのだろうと考えていくうちにひとつの可能性に打ち当たった。
自惚れているのでは自分でも思った。ほかの者に相談してもばかにされて終わってしまいそうだから一度も口にしたことはなかった。
わたしの言葉は賭けだ。目の前にいる、人に対してはやけに鋭く己のことにはえらく悲観的な彼の気持ちを確認するための賭けだ。
わたしの言った言葉の意味を考えているのか彼は言葉を紡ごうとはしないが、その代わりのめ息がこの場の空気を淀ませる。
彼の思い通りの立ちふるまいをしないと今し方と同じため息を何度も吐かれた。呆れたような、けれども見捨てることもしないため息にはもうすっかり慣れてしまった。
なにも回答しない彼の左右で色の異なる瞳をじいっと見続けると目が合った途端に逸らされて彼はまたため息を吐いてみせる。
そして彼の口から出てきた言葉はわたしに対する問いかけであった。
「なぜ、そう思うのですか」
答えは簡単である。わたしが自惚れているからだ。それ以外にはなにもない。
わたしがとっても自惚れていて、自分の考え方が間違っているのかそれとも合っているのか確認するためには先の言葉が彼を試す上で一番容易であった。
しかし彼は正直ではない。彼の本音はつらつらと並べた嫌味と注意のなかに織り込まれているのでわたしも彼の真意を聞き逃してしまっているかもしれない。
「本当にそう思ったからだよ。あんたに……じゃなくて、宗三に言われて気づくことってたくさんある。わたしでも気づかない部分を宗三はよく見てくれているって思ったの」
感謝しているのだ。宗三に言われたからこそ直そうと思うようになったことも山のようにある。
それは見返してやりたいから、嫌味を溢す口を塞いでしまいたいから、宗三の目に少しでもよく映りたいから、だ。
目を伏せてそう言い返すと宗三は黙りこくっていつものようなわざとらしいため息ではなく鼻から抜けるような息を吐く。
それから宗三はわたしの目の前に座ると、わたしの顎をか細い指先で持ち上げて強制的に目線を持ち上げさせられてしまう。
宗三はすこし困ったように笑っていた。眉間のしわは消えて、眉の形はやわらかく、深緑と瑠璃紺の瞳は細かい感覚で瞬きをしていた。
「……だれよりも、貴女自身よりも貴女を見ていますから」
見たことのないほどのやわらかい笑みに思わず見とれてしまう。どことなく口角もあがっている気がした。思い違いかもしれないがたしかにそう感じたのだ。
宗三の言葉にわたしがなにも答えられず呆然としているとぎゅっと鼻をつままれてそっぽを向かれてしまう。けっこうきつくつままれて若干の痛みが残る。
そっぽを向いた宗三は袖口から扇子を取り出してぱたぱたと顔を仰ぐ。いつもよりほんのりと赤い頬に、わたしは彼の気持ちと自分の気持ちを確信してしまった。
「これからもわたしを見ててね」
彼の着物の裾をきゅっと握ってそう呟くと小さい声音でもちろんです、とだけ返ってくる。
ああ、やっぱりわたしの自惚れは間違いなんかではなかった。
「悪口は全部惚気になった」
【9/22 お題@ 刀さに版深夜の審神者60分一本勝負(@saniwan60)様】
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