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 !ATTENTION!
 ごちゃまぜで刀さに要素あり(やや偏り気味)。
 酔っ払い方はあみだで決めたのでキャラ崩壊あり。
 また、異動組は含みません。



 乾杯の音頭で始まった酒盛りは、この本丸の刀剣たちにとっても久しぶりのことだった。
 最近は出陣やら特別な任務で非常に忙しくしており、宴会をする暇がまるでなかった。
 それが一息ついて、刀剣たちに労いをと思ってわたしは皆に意見を聞いた。
 すると、打刀以上の刀剣たちは揃いも揃って酒を呑みたい、美味しいものを食べたいと言い出したのだ。
 しかし、主力の刀剣たち全員が酒を飲んでまともな判断力がつかない状況になってしまっては敵襲や急用があった際に心もとない。
 そう考え、わたしは刀種に分けて宴会をするように提案した。
 提案は受け入れられ、今日は打刀たちの宴会である。
 当初わたしはこの宴会に参加する予定はなく、手配だけして刀剣たちに任せるつもりだった。
 だが、やれ主が一緒じゃないといやだ、主を差し置いて酒盛りなど……という刀剣たちのために参加することにした。べつにお酒を飲むことは嫌いではない。
 一応わたしも刀剣たちの主にあたるので、わたしがいるとリラックスしてお酒が飲めないのではと思っていたのだけれど案外そうでもないようで、誘われたことはすこしだけ嬉しかった。
 刀剣たちと酒を酌み交わしたことがなかったわたしは、この時まだなにが起こるかなど知らなかった。
 ただのちょっと賑やかで楽しい宴会、それで終わると思った愚かなわたしを笑えるならどうか笑ってほしい。

 乾杯の後にそれぞれグラスを当てて、一息に酒を飲み始める。それから拍手が起きて、皆一斉に箸を持ち始める。
 料理はあらかじめ歌仙兼定や燭台切光忠が作ってくれて、いつもに増して豪華な和食や酒に合うつまみが並んでいる。
 お酒も各種取り揃えているため、各々好きなものを最初から飲んでいるようだ。グラスの中身を見てみると、なんとも好みがわかりやすい。
 日本酒を飲んでいるのは大和守安定、鳴狐、宗三左文字だ。
 三人ともおちょこでゆっくりと飲んでいるのがなんとも似合う。大和守はすでに渋い顔をしているのだけれど大丈夫なのだろうか。いささか心配だ。
 わたしは誰が下戸で、誰がザルで、誰がひどい酔い方をするかなどまったく把握していないので、みんなの様子を探り探り控えめに飲むことにした。
 宗三はなれた手つきでもう既に二杯目を注いでいる……と思ったら鳴狐の分もちゃんと注いでおり、宗三は案外そういう気遣いができるんだ感心するが、失礼なおどろきはとりあえず胸に秘めておくことにした。
 鳴狐はというと、相変わらずの無表情なので感情が読めないが、いつもより嬉しそうな感じはする。お供の狐は油揚げを貰って嬉しそうに頬張りながら相変わらず鳴狐の代わりに言葉を連ねる。
 その横で明治時代に主流となったとされている日本にある酒としては比較的新しい酒であるビールを飲んでいるのは陸奥守吉行、長曽袮虎徹、蜂須賀虎徹だ。
 陸奥守が率先してふたりのビールを注いでいる。どうやらもう一杯は飲み干しているらしい。なんともペースが早いが大丈夫なのだろうか。
 蜂須賀は隣に座る長曽袮を睨みつけながらビールを飲んでいる。隣にいることと同じ酒を飲んでいることがよっぽどお気に召さないらしい。
 長曽袮はそんな態度の弟を流しているが、蜂須賀からするときっとそんな態度も気に食わないのだろう。ピリピリとした雰囲気を感じ取りながらも間を取り持つのが陸奥守で、心配に拍車がかかる。
「あーるじ、なに飲んでるの?」
 周囲を眺めながらビールを飲んでいるわたしの隣に加州清光がぴったりと寄り添ってくる。
 加州の手には甘ったるそうなブラッドオレンジの飲料が入ったグラスが握られている。さすが加州、こんな時でもかわいさアピールを忘れない。
 男がこんな軟弱なものを飲むなんて、とふだん人間との飲み会だったらそう思ってしまうかもしれないが、加州なら許せるのはきっとわたしが刀ばかなのだろう。
「これはビールだよ」
「へぇー、あいつらも飲んでるけど、そんなに美味しいの?」
「飲んでみる?」
 グラスを加州に手渡すと、加州は上目遣いでわたしのほうを見ながらグラスを少しだけ傾ける。泡が口についているのがあざとかわいい。お前は合コンにいる清楚系を装った草食男子を狙うビッチか。
 加州は舌でビールを味わいながら、眉をひそめてグラスをわたしに突き返す。どうやら加州のお口には合わなかったらしい。
「うえー苦いよコレ」
「はは、加州にはまだ早かったね」
「……俺は主より何百年も年上なんだけどな!」
 加州は顔を膨らませながら口直しに自分の飲み物を飲み干してしまう。そんなに一気に飲んでしまって大丈夫なのだろうか。
 カクテル系のお酒はそのお洒落でかわいい見かけ、甘ったるい味とは裏腹にアルコール度数はそれなりに高く、油断しているとあっという間に酔っ払ってしまう。
 わたしの肩にもたれかかってお酒を飲む加州を横目に他の刀剣たちを見てみると、歌仙兼定と山姥切国広、へし切長谷部は焼酎の水割りを作って飲んでいる。
 国広に至ってはそもそもこの場に引っ張り出せたことが奇跡的だと思う。なかなかいいペースで飲んでいる辺り、どうやらお酒は嫌いではないようである。
 すこし目が据わってて赤ら顔だが具合は悪くはなさそうだし、まあ放っておいても大丈夫だろう。
 問題はこの隣で火花が飛び散っている歌仙と長谷部だ。この二振りは日頃から仲がよろしくない。
 実害のない犬猿の仲ならわたしも大して気にしないのだけれど、二振りして大人気なく周囲を巻き込むからたちが悪い。
 歌仙と長谷部の近くにいたはずの国広は知らないうちにこちらの方に場所を移動してきている。危険を察知したのだろうか。
 今日も大方、酒の飲み方だとか種類で揉めているのだろう。楽しく飲めばよいのに。
「主、この細川の狼藉者をはやく追い出してください!」
「なにが狼藉者だ、小うるさい黒田が!」
「あんたたちお酒は仲良く飲みなさいよ……」
 ほらやっぱりわたしに絡んできた。わたしが嫌な顔をしてそれ以降無視すると、加州がそうだそうだとわたしの後に続いて二振りを諌める。
「喧嘩してると酒が不味くなるっての」
 諌めた、かと思いきや二振りを煽るような発言をする加州の腕を慌てて掴む。
 加州もだいぶお酒が進んでいるのかもしれない。ふだんはこの二振りに向けてこんな威勢のいい発言をする性格ではないのだ。
 加州の言葉に反応した歌仙と長谷部は顔を合わせてさっと引き下がる。
 二振りが青ざめたような表情をするのはとても珍しい。反省しているのならそれでいいのだが、まるで、なにか別のものに怯えているような気もする。
「細川だ黒田だってこっちはよくわかんないけどさぁー、酒飲んでる時までそんなこまいことで騒ぎ立てる必要なくない? 楽しく飲めばいいじゃん、ねっ、主!」
「うぇっ、う、うん、そうだね」
「ほら主もそう言ってることだし、ふたりともかんぱーい!」
 いきなり話を振られて驚いたが、とりあえず頷いておく。なんだかお酒を飲んだ加州はいつもよりも強気だ。
 素面の時は少なくとも歌仙と長谷部を押しつけるほどの威圧感はないはずだ。
 二振りと乾杯した加州は気分がよろしくなったのか、にこやかな笑顔でぐいっ、とグラスに入った飲み物をまたもや飲み干している……待って、それわたしがさっきまで飲んでいたビールだ。
 苦いのなんのと言っていたのに平気な顔で飲んでいる。さっきの演技だったのか疑いたくなるところである。
 凄まじい飲みっぷりの加州を横目に見ていると、歌仙がこそっとやってきてわたしに耳打ちをする。
「主……加州は悪酔いするから気をつけるんだよ」
「えっ、そうなの?!」
 加州の新たな一面を知って驚いていると、加州と歌仙はべつの輪の方へ行ってしまった。
 すると、加州が座っていたところに入れ替わりで長曽袮が腰をおろす。どうやらわたしの分のビールを持ってきてくれたらしい。さすが大人びてるだけあって気が利くなあ、とつくづく思い知らされる。
 ……ああ、蜂須賀がとてもこちらを睨んでいる。そんなに怒らないでと手をひらひらと振るが、蜂須賀はお酒に口をつけながらも睨みをきかせている。
 どうもわたしの隣に長曽袮がいるのが気に食わないらしい。
 蜂須賀はわたしの初期刀で、常にわたしの隣にいてくれた。だからなおのこと贋作である兄がわたしの隣にいることが許せないのだろう。
「すまないな、主。俺がいるせいであいつから睨まれて」
「いいや、蜂須賀さんに睨まれるなんて滅多にない経験だから新鮮でちょっとおもしろいよ」
「主は最初の一振りにあいつを選んでくれたそうだな。どうりで懐いているわけだ」
 長曽袮は嬉しそうにほほ笑みながらビールを飲み干す。
 やっぱり弟から嫌われているとは言えども、兄として弟が活躍していることは嬉しいことなのだろうか。
 真贋の隔たりはわたしがどうこう言ったところで修復するものではないと思うが、なんとか和解してほしいものだ。
「……ところで主よ」
「ひゃっ?! な、なに?」
 先ほどまでグラスを握っていた冷たい手がわたしの太ももにそっとのせられる。
 ゆったりとわたしの太ももをなでつける手がくすぐったい。もしかして長曽袮は、酔うとそういうことをする性格に豹変してしまう性質なのか。
 長曽袮の長い髪の毛を手で避けると、目がとろんとしていて、頬が赤い。ああ、長曽袮は完全に酔っ払っている。
 前髪をあげていた手を掴まれ、長曽袮の頬に当てられる。ゆったりと心地良さそうに笑う長曽袮は初めて見る。
 拒むのは可哀想だが、この太ももに置かれた手と掴まれた手をどうすればよいかまったくわからない。
「蜂須賀とたいそう仲がいいようだが、もう契りは結んだのか?」
「えっ、ち、契り?!」
 審神者と付喪神の契りとはどういうことを言うのだろう。
 よくわからないまま首を横に振ると、ぐっと体を引き寄せられ、顔を近づけられる。
 男っぽいにおいとお酒のにおいが入り混じって、こちらも酔ってしまいそうだ。
「その反応だとまだのようだな……」
 どうしていいかわからず困っていると、ふと影がおりて視界が暗くなる。
 顔を上げると、いままで見たことのない顔をした蜂須賀が髪の毛を振り乱してメンチを切っていた。……こんな怖い顔をした蜂須賀は初めて見た。
 わたしの血の気はさっと引くが、長曽袮はにやにやと笑っている。そういえば長曽袮は案外蜂須賀のことを挑発する兄なのだと思い出す。
「いやしい贋作の手で主に触れるなしれ者!」
 そう叫ぶと蜂須賀はわたしから長曽袮を引き剥がし、わたしのことを抱き寄せる。
 その隙に、いつの間にか長曽袮の背後に回った長谷部が長曽袮を羽交い締めにしている。
 長谷部はまだ完全には酔っておらず、わたしに接近した長曽袮が許せなかったらしい。
「主に対する無礼は許さんぞ、長曽袮!」
 羽交い締めにされたままずるずる引きずられていく長曽袮はいまだ笑ったままビール瓶で一気飲みしている。
 まさか長曽袮があんな酔い方をするとは夢にも思っていなかった。しっかりしているお兄さんタイプだと想っていたのに、わたしの中の長曽袮のイメージがすっぱりと変わってしまった。
 ……いや、お酒を飲むと普段の鬱憤が発散されるとも言うから相当なにか溜まっていたのだろう。そういうことにしておこう。
 蜂須賀はわたしの頭を撫で「気をつけるんだよ」と言い残すと、元いたテーブルへ戻っていく。
 落ち着いたところでせっかく光忠や歌仙が腕をふるってくれた料理を食べようと箸を持つと、ぐいぐいと浴衣の袖を引っ張られていることに気づく。
「……国広?」
「俺もたべたい」
 あのうるさい中ずっとわたしの隣にいた国広はずっとお酒を飲み続けていたようだ。
 彼の傍らにあった一合の焼酎はいつの間にか底をついてしまっている。この短い時間でこれだけの量。見かけによらず大酒のみなのかもしれない。
 そういえば国広を作った刀工は九州の生まれだったと聞く。もしかして堀川派の刀剣はみんなお酒が好きなのかもしれない。
 それにしたって彼がわたしの横にぴったりとくっついてくるなんて珍しい。
 すこし嬉しくてそわそわしてしまう。お酒を飲んでちょっと開放的になったのかもしれない。ふだん内気な国広にはふだんからこれぐらいのほうが丁度いいのにと思う。
「どれ食べたいの?」
「それがいい」
「ん、これ?」
 ちょうどわたしが手をつけようとしていた刺身をご所望らしい。
 醤油をつけてわさびをのせた鮪の赤身を試しに国広の口元にもっていくと、大人しく口を開いてわたしの箸から刺身を食べる。……これは大発見だ。
 国広はお酒がはいると少し控えめではあるものの甘えん坊になるようだ。わたしの箸からものを食べるなんて素面なら絶対にあり得ない。
 ぼうっとした顔のまま刺身をもぐもぐしている姿がかわいい。試しに頭に被ってる布をとってみたいが、機嫌を損ねられては勿体ないので、とりあえずそのまま刺身で餌付けをする。
「あんたも食べろ」
 国広はわたしから箸をぶん取り、おぼつかない手つきで刺身を掴んでわたしの口元に持ってきてくれる。
 これ以上わたしの心臓をばくばくさせてどうするつもりなんだ、山姥切国広。
 とりあえず運ばれるがままに刺身を食べる。美味しい、のだけれど醤油がついていないのでちょっと物足りないがまあ、この際気にしないことにした。
 刺身を食べ終わって国広に腕を抱かれて心地よい気分でいると、寝転んでいる紺色の背中が見える。
 ちょっとごめんね、と国広に前置きして席を離れると、円の外で寝ていた紺色の背中は安定であった。
 もともと安定は騒ぎ立てる性格ではないが、それにしたって声が聞こえないと思ったらこういうことだったのか。安定の顔を覗き込むと、真っ青で歯をがちがちと震わせている。
「や、安定、大丈夫?! ちょっとあんたたち介抱しなさいよ!」
「おや、大和守はもう潰れてしまいましたか」
「ちょっと、宗三! お酒弱いの知ってるならほどほどに飲ませなさいよ!」
 ほんのり赤く染まった頬でお上品ぶって笑う宗三は何事もなかったかのようにおちょこに酒を注いでいる。
 宗三と鳴狐の周りには酒瓶がいくつも散らかっている。三人で一体どれだけ飲んだのかまったく計り知れない。
 具合が悪くなっていてうなされている安定を膝の裏に腕を通して肩を抱きかかえると、なんのツボに入ったのかわからないが鳴狐が静かに笑い出す。
 たしかに男が女にお姫様抱っこされている様は笑えるかもしれないがそれどころではないはずだ。
「なぁんで僕が面倒見なきゃいけないんですか」
 もう宗三は話になるような状態じゃないことはいまの呂律で理解した。
「ああもう、いいわかった、わかった。鳴狐も笑わない! 安定?」
「うぇっ……ぎもぢわるい……」
 気がついた安定はなにかを我慢するように口元を抑える。いまここで吐かれるのはまずい。非常にまずい。
 だが流石に男の子を抱えてトイレまでダッシュは無理がある。なんてこった。もっとちゃんと見張っておくんだった。
「ちょ、ちょっと待って、吐くならトイレにしてぇ!!」
「あーもー何やってんのさ、情けないなあ」
 困り果てたわたしの前に現れたのは安定と同じく沖田総司の刀であった加州だ。
 加州はわたしから安定を受け取ると、あっさりと俵持ちにしてしまう。
 普段は十キロのお米を運ぶのにすらぶりっ子して持てないなんて言うくせに。やっぱり持てるんじゃないか。
 安定とは喧嘩ばかりしているのにこういう時はすんなり世話を焼いてくれる辺り、加州はなんだかんだ優しい。
「ったく飲めないなら飲まないでくれる?! 毎回お前の布団出して寝かせる俺の身にもなれよ! 次の日もどうせ二日酔いでまともに動けないんだから。本当お前ってばかだよね! 大ばか!」
「か、加州……その程度にしておいたら?」
 怒涛の説教になんだかこちらの胸まで痛む。お酒が入った加州はなんだか口先が鋭い。
 歌仙が言っていた悪酔いとは恐らくこのことだろう。
 加州を宥めようと笑いかけると、今度は矛先がわたしに向いたのか、加州は人差し指を突きつけて眉を釣り上げる。
「主、加州って呼ばないでっていつも言ってるじゃん! 清光って呼んでよ!」
 そんなことをいつも言われている記憶はまったくないのだが、加州が日頃から心の奥底でそう思っていたのかもしれない。なるほど今度からは清光と呼んであげよう。そのほうが余計な火の粉が降ってこなくて済みそうだ。
 安定を清光に任せてほっとしていると、いきなり着物の裾を引っ張られて体勢を崩される。
 そんな意地悪なことをするのはひとりしかいない。口を着物の袖で隠しても笑っていることはまるわかりだ。
 よれた着物の裾を直してちゃんと座ると、目の前におちょこを差し出される。
「ずいぶん気が利くじゃない、宗三」
「ぼくのお酒が飲めないとは言わせませんよぉ」
 目尻を下げて微笑む宗三はかわいらしいのになんだか小憎たらしい。たぶん日頃の嫌味っぽい性格のせいだ。
 お酒は強いほうなのか、あっという間に酒瓶の無残な死体が転がる。
 それをせっせと集めているのは鳴狐だが、酒瓶を重ねてタワーを作る遊びはなんとも危険なのでやめて頂きたい。割れた時の歌仙の鬼のようなといったら考えるだけで身震いしてしまう。
 おちょこに少し口をつけて飲むとすぐにお酒が注がれる。にやにやと笑っている宗三の思惑はおそらくわたしを潰すことだろう。
 わたしを潰したところでなんの利点もないとは思うのだが、なにかわたしの知らないところで恨みでも買ってしまっていたのだろうか。
「貴女ってぇ……ほんとかわいげがないですよねぇ」
「……は?」
「女性なんですからぁ、こんなに飲めませんとか、お注ぎしますとか、かぁわいいこと言えないんですか、やれないんですかぁ! ほんっとうに貴女はかわいくない!」
 宗三とは以前より馬が合わないのでそんな罵詈雑言は日常茶飯事だ。
 日頃よりやれ上品じゃないだとか、高貴さが足りないとか、そんな大事な部分がすぐ出てしまいそうな着物の着崩し方をしているお前がなにを言っているんだと思うが、が言い返すとよりうるさくなりそうなので適当に流す。
「はいはいごめんなさいね、気が利かなくて。かわいい女じゃなくて」
「まったくですよ!」
 堂々と不満たっぷりに言い切られる。少しは言い過ぎましたとか謝罪を期待したのだけれど、宗三にそんな言葉を期待したわたしが悪かった。
 わたしが宗三に滾々と怒られているところをみてしばらく笑っている鳴狐にお供の狐が困った様子で鳴狐を諌める。一体今回はなにが面白かったというのか。
「鳴狐、今度はなにが面白いの」
「宗三の……声真似……ふふふっ」
 今度は宗三がわたしの声真似をしたことに笑っているらしい。宗三が笑われているはずなのにわたしまで笑われているような気分になる。なんともいたたまれない。
 お供の狐が「主殿にとても似てらっしゃいました」と宗三の声真似を褒めると、宗三もなぜか誇らしげにしているのだが、そんなに嬉しいことではない気がする。
 宗三と鳴狐の輪の中にいると、ばたんっ、となにか倒れる音に驚いて後ろを振り向くと、先ほど長谷部に引きずられていった長曽袮が仰向けで倒れていた。
「ちょっと、また……!」
 また要介護者が増えたと思って立ち上がると、宗三に「どこへ行くんれすか」と引き止められる。
 宗三ももう目が据わっているし、呂律もさっきから回っていない。もうまともな状態ではないだろう。
 鳴狐も倒れて寝ている長曽祢を見て腹を抱えて笑っている。相変わらず声はでていないが。
 構わず宗三の手を振りほどき倒れている長曽袮に駆け寄ると、テーブルを挟んで座っている蜂須賀が勝ち誇った表情で何杯目かもわからないビールを飲み干していた。
 顔色ひとつ変えない蜂須賀は相変わらずいつも通りの凛々しく整ったお顔立ち。蜂須賀が打刀でもっともお酒に強いだなんて聞いていない。
 通りで今日をえらく楽しみにしていたわけだ。ふだんはお酒なんて飲まないのに、飲むと誰よりも強いタイプなのだろうか。
 蜂須賀の隣には陸奥守がテーブルを枕にして心地よさそうに爆睡している。なにやらむにゃむにゃと寝言を口にしているがなにを言っているかはわからない。
「は、蜂須賀さん……その、長曽袮さんは一体なにが……」
「ああ、主に悪さしないように思い知らせてやったんだ。酒癖は酒で潰すしかないからね」
 わたしに先のようなことをしないようにしこたま飲ませてさっさと潰したということなのだろう。嬉しいような恐ろしいような。とりあえず酒の席で敵に回してはいけないことはよくわかった。
 わたしでは流石に長曽袮を運べないので、とりあえず気を失っている長曽袮と陸奥守にタオルケットをかけてやり、せめて風邪を引かないように願う。
「蜂須賀さん……あんまり飲み過ぎたら明日に響くよ」
 やんわりと酒量を注意してみるが、蜂須賀はうんうんと笑顔で頷きながら次々と封を開けていく。聞いているようでまったく聞いていない。
 よく見ればビールだけに飽き足らず、ほかの洋酒にも手を出していた。ワインにウィスキー、それからどこにあったのかブランデーまで。
 おちょこも転がっているのでおそらく誰かに日本酒も勧められて飲んだのだろう。いろんな種類の酒を一気に飲むと悪酔いするというのだが、蜂須賀は大丈夫なのだろうか。
「うん、大丈夫。俺は次の日に残らない性質だから」
 さらっと恐ろしいことを言ってのける蜂須賀に思わず身の毛もよだつ。
 そういえば第一部隊が厚樫山を攻略した記念に宴会の席を設けたことがあった。
 ほかの五振りは次の日に二日酔いで部屋からしばらく出てこなかったのに対し、蜂須賀は朝からさわやかな笑顔でわたしを起こしにきてくれたことを思い出す。
 あの時は単純に次の日に残るほどはめを外していなかっただけだと思ったのだが、なるほどこういうことだったのか。
 しばらく蜂須賀といままでのことや今後のことについて話していると、どこかからすすり泣く声が聞こえる。大の大人しかいないはずなのに一体どこから聞こえるのかと辺りを見渡す。
 ……部屋の角で体育座りをして小さくなっている長谷部がいた。すすり泣く声の正体は間違いなく彼だろう。
 不安になって近寄ってみると、子どもみたいに目に溜めた涙をぽたりぽたりとこぼしている。膝の部分には涙が落ちた後が残っており、大きな染みを作っていた。
「長谷部、大丈夫……?」
「あっ……ひっ、ぐすっ……あるじっ……」
 私の声掛けに長谷部は顔を上げるが、もはや涙とその他諸々の液体で格好いい顔が台無しだ。
 その場にあったちり紙を顔に押し当て、涙となにか混じったものを拭き取ってやるが、まだまだ涙は溢れてくる。泣いている長谷部なんて初めて見た。
 何事も簡潔に且つ冷静にこなすが多く報酬を望むわけでもない、控えめな姿しか知らなかったのでこんなにも我を忘れて泣いている長谷部にこちらが挙動不審になってしまう。
「長谷部大丈夫? もうお部屋戻ろう?」
 子どものように長谷部が泣いているせいでわたしまで子どもに問いかけるみたいになってしまった。子ども扱いはきっと癪に障るだろうに。
 長谷部の頭を撫でると、声をしゃくり上げながらも目をこすり低く呻く。
「あっ、あるじは、なぜおれをっ……お側においてくださらっ、ないのですか……?」
「……え? 長谷部は第二部隊の隊長じゃない」
「にばんれはらめなんですっ! いちばんが、いちばんがいいんです、おれは主のいちばんに……お側に、おいてください……」
 ぐすぐすとまた泣き始める長谷部はわたしの両腕を掴み、勝手に胸を借りて泣き始める。
 べつにそれ自体は構わないのだが、長谷部がそんな思いを抱いていたなんて知らなかった。
 腹に一物抱えながらも与えられた仕事を粛々とこなし、功を積んで忠臣ぶっている、とわたしが勝手に思っている長谷部がこんな感情を抱いているなんて知らなかった。
 いつもと打って変わって弱々しく泣いている長谷部の背中を擦っていると、近くのテーブルに水が力強く置かれる。
「主、なにしてるの」
 恐る恐る水を持ってきた人物のほうを振り返ると、露骨に機嫌の悪そうな顔をする清光がわたしの隣に座っていた。
 眉間にはそれはもう深いしわが刻まれているし、さぞかし力が入っているのか、コップの中に入っている水が揺れている。
 正面には泣きついてくる長谷部、横には睨みをきかせてくる清光がいる。どこへも逃げられなさそうな気配しかしない。
「俺さあ、前々から思ってたんだけど……」
 清光はテーブルに肘をつき、わたしのことを睨みつけたままため息混じりに説教をまた始めようとする。
「主ってほんとガード薄いよね?! 貞操観念あんの?」
「は、はあ……」
「だってさ、いまもこうやって男に抱きつかれても平然としてるし、俺たちの輪に混ざって平然と酒飲んでるし……もっとちゃんとしたほうがいいと思うよ!」
 お前が主がいないと嫌だと言ったのだろう加州清光。お酒に溺れて自分が言い出したことも忘れてしまったのか。
 よっぽど日頃のうっぷんが溜まっているのか、わたしの至らない点をちくちくと針で刺すように指摘し始める。
 しかもそれがあながち間違いではないので耳が痛い。返す言葉もございませんというやつだ。
 けれどもこんな男所帯で寝食を過ごしていたら順応できてしまうのもまた当たり前の話で、清光のお説教は右耳から入って左耳から抜けていく。
「ねえ、わかってる?! お風呂から出てきたらノーブラで歩かないでよ! 朝起きた時もお腹掻きながら歯磨かないで!」
「あーはいはい……」
「絶対わかってないでしょ! 俺はね、主のことが大切で大好きだから言ってるんだよ。うるさくしたいわけじゃないんだから!」
「はい、ごめんなさい」
「心がこもっていない! 大体……いつまで長谷部も主に抱きついてるのさ! 起きなよ、ほら!!」
 清光は半ば無理やり長谷部をわたしから引き剥がすと、また俵のごとく肩に乗せてすんなりと歩いて行く。
 先ほどは安定だったからよかったものの、打刀でもそうとう小柄な清光が大きな長谷部を持ち上げている図は非常にアンバランスで愉快だ。
 しかし説教魔といえども日頃からの面倒見のよさは酒にのまれてもそのままのようだ。
 廊下からぐすぐすと泣いている長谷部が清光に叱咤されている声が聞こえるが、わたしが下手に関わると飛び火してしまうのでわたしはそそくさと場所を移動した。
「みんなお酒飲むと性格変わるんだなあ……」
 わたしは量をそこまで飲んでいない所為もあるがそこまでお酒に飲まれる性質ではない。すこしテンションが上がるぐらいで、わかりやすい変化はない、と思う。
 開封されて放置されている日本酒の瓶をとって手酌しようとすると、背後から手がのびてきて、瓶がひょいと持ち上げられる。
「僕たちの主が手酌だなんてみっともない」
「あ、歌仙」
 いつの間にやら姿を消していた歌仙が片手に料理がのせられた皿を持ちながらわたしの隣に腰をおろす。
 とてもいいにおいがしてお皿を覗き込むと、イカにネギとマヨネーズを絡めたおつまみが目の前に差し出される。さすが燭台切とともに厨を仕切っているだけある。
 歌仙にお酒を注いでもらって、今度はわたしがと酒瓶を手に取ろうとすると「君はそんなことをしなくていい」と一蹴されてしまう。
 普段はわたしに対して手厳しいくせにみんながいる前だとわたしをやけに主扱いするのだ。歌仙の考えていることはよくわからない。
「おいしい」
 おつまみのイカを口に放り込むと、やはり歌仙の料理はおいしいとうなずいてしまう。一見マヨネーズがかかっているだけにみえるが、きっと色んな調味料が混ざっているのだろう。
「当然だろう? 僕が作ったのだから」
 満足気に笑う歌仙は頬がじゃっかん赤く染まっていて、いつもよりも表情がやわらかく見える。
 しかしそれほど酔っ払っているわけではないらしく、平然とした様子で酒を飲み肴をつまむ。
 ここにきてようやくまっとうなお酒の飲み方をしている刀剣が現れてわたしもなんだかほっと一息つける。
 歌仙こそわたしの近侍であるのだから日々の鬱憤なんかがたくさん溜まっていて愚痴をこぼしにこぼしまくるのかと思ったのだが、案外そうでもないらしい。
 お酒の飲み方も酔い方もとてもまともだ。みんなもこの点ばかりは歌仙を見習ってほしいとつよく願う。
 自我がありすぎてつまらないとも言うのだが、本人に言えば怒りそうなので胸のうちに秘めておくことにする。
「歌仙はぜんぜん酔わないんだね」
「まあね。主のいる前でみっともない酔い方はできないよ」
「そんなに気張らなくてもいいのに」
 おちょこの酒をあおると、口をもぐもぐと動かしたままの歌仙に片手でお酒を注がれる。……完全に片手間で面倒を見られている。
 もしかするとわたしが近くにいるから歌仙は酔えないのではないだろうか。
 別の場所、わたしがいてもわたしにまったく気を使わない刀剣の場所に居たほうがきっといい。宗三とか。
 こっそりお酒を持って歌仙に背を向けるような体勢をとると、途端に首根っこを掴まれる。
「どこに行くつもりだい」
「ちょっとお花摘みに……」
「お酒を持って? ははっ、主……相当酔っ払っているんじゃないのか」
「……」
 あいも変わらず歌仙に嘘は通用しない。わたしは大人しく体勢を戻し、イカをつまむ。
 特別話すことがあるわけでもなく、静かに酒を飲んで目の前に広がるほかの刀剣たちの酔っ払った様を見ているだけの状態。
 ぼうっと眺めていると、いつも通りの端正なお顔でお酒を飲み干す蜂須賀に国広が捕まった。お互いどつき合いながら談笑しているので仲はだいぶいいようだ。安心する一面を見れて何よりだ。
 宗三と鳴狐は一体何度目かわからない乾杯をしている。あの二振りが話していること自体が意外なのだが、鳴狐が楽しそうに笑っているので合うのだろう。しかしいまの鳴狐なら箸が転がっても笑いそうだ。
 そんなところに長谷部をしっかり部屋に運び終えた清光が戻ると、なにか賭け事をしていたのか、宗三が手に持っていた扇子で顔を隠してしかめっ面をしており、清光が鳴狐とハイタッチをしている。一体なにを賭けていたのだろうか。
 わたしは見ているだけでも楽しいが、歌仙は混ざらなくてもよいのだろうか。
 そろりと歌仙を横目で見ると、せわしない子どもでも見るかのような眼差しで盛り上がりを見ている。……かと思えばすっくと立ち上がり、手を何度か叩く。
「さて、そろそろお開きにしよう」
 歌仙のお開き宣言に時計を見ると、もう日付が変わって一時間も経つ。
 これ以上このペースで飲めばいくら明日は非番といえども布団から出てこられるのはおそらく少数だろう。
「えーまだ飲み足りないよ」
 残念そうな顔をしながらそう訴えるのは蜂須賀だ。いや、充分飲んだと思うのだがまだ飲み足りないのか。底なし過ぎて心底恐ろしい。
 そして国広と宗三は机に顔をのせながらお腹がすいたとごねている。残り物でもつまめば……と思ったがテーブルの上にあった食事はきれいに片付いている。
 燭台切と歌仙が腕に腕を振るいすぎたこの量をすべて食べきってしまうとはまったくとんでもない胃袋だ。
 歌仙は困ったように夜食を作ってあげるよと納得させると、二振りは余ったお酒を飲んで夜食の出来上がりを待つことにしたらしい。
 そこは片付けを手伝ったらどうなんだろうかと思ったが、国広はまだしも宗三がそんなことを考えるはずもない。
 鳴狐と清光はいそいそと片付けを手伝い始める。二振りとも相当の量を飲んでまったく足取りに迷いがないのは一体どういうことなのか。
 もしや刀剣男士はお酒の分解が上手いのか……と思ったがそういえば真っ先に潰れた安定がいたことを思い出す。この考えはなかったことにした。
「主は陸奥守を起こしてくれ」
「はーい」
 歌仙にそう言われて机上に頭を乗せてすやすやとこの喧騒の中で心地よさそうに寝ている陸奥守に近寄る。
 にへらと笑いながら寝ているのだが、なにか夢でも見ているのだろうか。こっちまで笑けてしまう。
 頬をつついてもつねってもまったく起きる気配はない。しかたないのでからだを揺すってみる。
「陸奥守、起きなさーい。お布団で寝るよー」
「んん……? あるじぃ、一緒に寝とうせー……」
 国広と一緒でお酒が入ると甘えたになるのか、陸奥守はあまり開いていない目でわたしを見るなりほほ笑んでそんなことを言う。
 こうも甘えられると母性が試されている気がする。陸奥守はわたしのほうに倒れこんで寝ようとするが、いかんせんこれが重たい。
 なんとかしてからだを押し返すが、からだに力が入っていない成人男性のよしかかりは予想以上に重たいのだと実感する。
「だめだよ。ほら、自分のお布団行くよ」
「いやじゃ、主も一緒に寝るんじゃあ」
 先ほどまで大人しく寝ているかと思ったら起きた瞬間駄々っ子とは。陸奥守に頼られるのは珍しいことなので思わず口角があがってしまう。
 陸奥守が腰に抱きつくと、そのまま力が抜けてまた寝そうになっている。というかほとんど寝ている。先ほど起こしたばかりなのにもうはや寝息が聞こえ始める。
 腰に抱きつかれたことでまったく身動きがとれず、とりあえずからだを揺すって離してくれと頼むがあまり強くは揺すれない。ここで万が一嘔吐でもされてみろ、地獄絵図だ。
 困り果てていると、食器を片付けていた最中の清光に見つかって、またこの貞操観念の緩い主はとでも言いたげなげんなりとした顔で見下ろされる。
「なんでこう、主はさあー……そう許しちゃうかなあ」
 いい加減にしろと苛立ちを含めた目線の清光から目をそらしていると、ふと脚にかかっていた負担が軽くなる。
 陸奥守を持ち上げていたのは大酒飲みの印象がもう二度とはなれないであろう蜂須賀だった。平気な顔をして陸奥守を持ち上げているあたり、本当にまだまだ飲めそうだ。
「陸奥守は俺が運ぶよ。あとは任せたよ、歌仙」
「ああ任せてくれ」
「じゃあ主、おやすみ」
 優しいいつも通りの笑顔でほほ笑まれるとおやすみと返すことしか出来ない。
 横で拍子抜けしている清光と、テーブルの上をしっかり片付けてくれた鳴狐も蜂須賀の後に続いておやすみとわたしに声をかけてくれる。
 四振りを見送ると、一気に部屋が静まり返る。……よくよく見ると宗三と国広も夜食を待っている間に寝落ちしているではないか。
「ねえ歌仙、二振りとも寝ちゃってるよ」
「知っている。夜食を作る手間が省けた」
 洗い物をし終えた歌仙はたすき掛けにしていた紐と額にかかる髪の毛をまとめていた髪留めをとると、ようやっと一日が終わったと浅く長いため息を吐く。
 お酒が入った状態でよく洗い物なんて出来るなと心底感心するが、歌仙の性格上そういうことも気にしてお酒は控えめにしていたのだろう。
 その場で寝こけている刀剣たちにタオルケットをかけ、照明も暗くするとこちらもいい感じにうとうとと意識が遠のき始める。
 あまりの眠気に一歩足を踏み出すと視界がぐらりと反転する。どこが天井で地面かも定かではない。まさかいまになって酔いが回ってきてしまったのだろうか。
 いつの間にかお酒が進んでいたのか雰囲気に酔ったのかはわからないが、急な眠気がわたしを襲う。
 わたしのおかしな足取りに気がついた歌仙は暗闇の中でなにも言わずに急にわたしのことを抱きかかえる。
「このままふらふら歩かれて廊下で寝られても困る。送っていくよ」
 温かいからだは余計に眠気を誘い、抵抗する元気も残っていないので大人しく歌仙の胸元に頭を預けてしまう。
「うん」
 暗がりの廊下を歩いてわたしの部屋にたどり着くと、ゆっくりと布団の上に寝かされてぬくもりが離れていってしまう。
 なんだか名残惜しいが、そんな陸奥守みたいに一緒に寝てくれなんて言えるはずがない。いくら酔った勢いといえども、大変迷惑なあばずれ女になってしまう。
 寝床を整えてくれる歌仙を引き止めるかのように、口からはぽつりぽつりと今日の感想がこぼれる。
「今日は楽しかった」
「そうだね。僕らも楽しかったよ」
「次はぜったい歌仙も酔わせるから」
 そう宣言すると、歌仙はわたしの額の髪の毛を掻きあげ、暗闇のなかでふっと鼻で笑う。
 しかし暗がりに目が慣れておらず、眠たかったせいもあってかいまいち表情がよくわからない。
「僕も酔っている。……まあ、そういうことにしておいてくれ」
 ……額になにかあたる感触、そして歌仙の言葉を最後にわたしの記憶は途絶え、気がつけばもう朝を通り越して昼であった。
 起きたばかりの時には夢なのか現実なのかもいまいちわからないぐらいには寝起きが悪く、重たいからだをゆっくりと起こす。
 打刀たちは元気か、そして自分の最後の記憶を確かめるためにわたしはみなが揃っている広間へと向かうのであった。

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