「安定の目って、青くてきれいだよね」
縁側で休んでいる大和守安定の眼を覗き込みながら、審神者はそうつぶやいた。
とつぜん眼の奥まで覗きこまれて気恥ずかしい安定は視線をそらしながら首をかしげる。
ひとの姿形に具現化してからややしばらく経つが、安定は自分の容姿についての疑問を抱いたことはなかった。
周りには人間とは一味違う容姿の付喪神がたくさんいる。
それこそ自然界にそぐわない髪色であったりとか、とびきり大柄であったりなど、安定はその中では比較的人間に近い姿であった。
髪の毛は黒、背丈も普通、だが眼の色はすこしだけ変わっていた。
だが自分では変わっているとは思っていなかった。なんせ生まれ持った眼の色なので、それが当たり前であった。
「そうなの?」
「うん。まるで海みたいな深い青。うらやましいな」
審神者は茶色の瞳をつむって微笑む。
安定は海を見たことがないので海というものが大量の水というだけの認識しかない。
想像してもいまいち自分の眼の色と近づかない。
「でも、主も青だよ」
「……わたしが?」
「うん」
安定は審神者の眼ではなく、頭のてっぺんから足の爪先まで眺めてそう答える。
審神者は自身に青色の要素を探すが、まったく見当たらなくて疑問を抱いたように口をへの字に曲げる。
むしろなぜ、青の正体が審神者にはわからないのか、安定には不思議でしかたがなかった。
彼女の霊力が、青色をしているのだ。霊力は人間には見えないのかもしれない。
自分の眼の色とはちがい、透明な青。透き通るような切ない色は安定をときおり不安にさせた。
そして、すこしでも傷つけたら消えてしまいそうな繊細さは、庇護欲を抱かせる。
「主の青はね、僕とは真逆で透明に近い」
「へえ」
「消えちゃいそうで、ちょっと怖いよ」
思ったままのことを安定が言うと、審神者は困った顔でほほ笑み、安定の頭に手をおいて撫でる。
まるで不安を取り除くように、優しく、安心させるように。
けれどもそんなことをされても安定の、審神者の霊力に対する印象は変わらなかった。
色など関係ない。ただの考えすぎだと安定は考えるようにしたが、その日の夜、事件は起きてしまった。
深夜。子の刻を回った頃、警鐘の音が本丸中に響き渡った。
安定は同室の打刀たちを叩き起こし、寝室の外に出ると、今までに見たことのない光景が広がっていた。
どこからこの本丸の場所を割り出したのかわからないが、歴史修正主義者とおぼしき軍団が自分たちの領内へと侵入していたのだ。
すぐさま刀を手にとり、他の部屋の刀たちとともに応戦する。
寝起きで、しかも万全な体勢ではない安定たちは圧倒的に不利であった。
それに、今夜は本丸の主力とも呼べる部隊が遠征で出払っていた。戦力が半減しているところを狙われたのは間違いない。
防具をつけて万全の状態で戦に挑むのと、丸腰で応戦するのではわけが違う。いつも通りの力がまったく発揮できない。
自分よりも強大な太刀の攻撃を受け止める安定の横を、すっ、と蛇のような短刀が通り抜ける。
――敵が向かった場所には審神者の部屋がある。
ぞくりと背筋が凍った。審神者の、儚い霊力の色を思い出して、息が止まる。
自分が考えていたよからぬことが現実にいま、まさに起きようとしている。
「っ……!」
太刀の上からの重圧を弾き返し、背を向けて一目散に安定は走る。
審神者の部屋へ、無事であってくれと願いながら、廊下を走り、部屋の襖を足で蹴り倒す。
乱れた布団、あらゆる書籍が床に散らばっていて、暗がりの部屋で安定は眼を見開く。
「主!」
部屋の角に追い詰められている審神者を発見する。
胸元で逆手持ちにされた護身用の短刀は震えていた。怯えている主の姿を見て、安定の心には怒りが湧き上がる。
すぐさま先ほどの短刀を一刀両断し、涙を浮かべて怖がっている審神者を抱きとめる。
じんわりとからだに伝わってくるぬくもりに安堵し、安定は自身も落ち着かせる意味を込めて深い溜息を吐く。
「主、もう……」
「や、安定……だめ、後ろ!」
「くっ……!」
審神者が眼を丸くて叫ぶ。
しかし気づいた時にした行動は遅く、安定の背後から先ほどの太刀が振り下ろされる。
なんとか太刀をはじくことはできたが、左肩を掠め、浴衣を生温い赤で汚してしまう。
審神者に不安な思いをさせまいと、安定は肩などなんともないかのように刀を構えて、口角をあげる。
安定は自身の背にいる審神者を気にしつつ、仕掛けられる鍔競り合いを受け止める。
鍔競り合いのなか、安定はなんとか敵の隙を見つけ出し、先ほど自分がやられたのと同じように、敵の肩を斬りつける。
敵はうめき声をあげてよろける。その瞬間を安定が見過ごすはずもなく。
一気に腹を突き刺し、血液の絡みつく刀身を引き抜く。
血を払い、鞘の中に収めて、安定はようやっと後ろを振り返る。
いつもは怖がりでもないのに。いまだ恐怖が張りついた顔の審神者を、安定はふたたび優しく抱きよせた。
「安定、怪我が、怪我が……」
「これぐらい大丈夫。それより主こそ、怪我はないの」
平静を装って安定が尋ねると、審神者は涙まじりに大丈夫、と答える。
本当はずきずきと熱のこもった痛みが苦しくて仕方がない。だが審神者に心配させまいと安定は虚勢を張ってみせる。
安定の無事に審神者も気が抜けたようで、からだを預けるように倒れこむ。しがみつくその手はいまだ力がこもっていた。
彼女の霊力はいまだ透明な青で、変わりないことに安定は安堵した。
いまにも尽きてしまいそうな儚いこの青を守り続けていこうと、安定は抱きしめる手にそっと力を入れて心に強く誓った。
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刀さに版深夜の審神者60分一本勝負 様 @saniwan60
大和守安定 お題「透明な青」 「君を強くした儚げな色」
2015.06.17
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